永遠回帰の神話/ミルチャ・エリアーデ(エレンディラ/マルケス)

くり返していうが、叙事詩にうたわれている人物の歴史的性格は問題ではない。彼等の歴史性はこの神話化の浸食作用に長く抵抗し得ないのである。歴史的事件そのものは重要であるが、民衆の記憶にはとどまらず、またその追憶は特殊の歴史的事件を神話的モデルに密接に近づけるのではなければ、詩人の空想を燃え立たせないのである。(中略)
……歴史的事件とか実在の人物の追憶はせいぜい二、三世紀の間しか民衆の記憶には止まらない。民衆は、個々の事件と実在の人物とを記憶に止めておくことが困難だからである。民衆の記憶がはたらくその構造は、これとは異なっている。すなわち事件の代りにカテゴリーが、歴史的人物の代わりに祖型(アーケタイプ)があらわれる。歴史的人物はその神話的モデル(英雄等)に同化され、一方、事件は神話的わざ(怪物や敵対する兄弟との戦い等)のカテゴリーと一致させられる。